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2008.04.21

【耳嚢】動物であっても愛情が深いお話

先日、要らない本を整理していたら『耳嚢(みみぶくろ)』という本が出てきました。江戸時代に根岸鎮衛という南町奉行、旗本が年月をかけて世間話を蒐集し、随筆にまとめたものです。今でいう週刊誌ネタ的な本、というと下世話な感じがしますけれど、まぁ、当たらずといえども遠からず。気楽に寝転がって読むべき書の一つではあります。岩波文庫版の上巻だけしか買っていなかったようで下巻は見つかりません。
ぱらぱらめくっているといくつか面白い話がありましたので、今日はそのうちの一つを現代語に意訳してみました。昨今の風潮に鑑みて思うところがあれば幸いと存じます。

『動物であっても愛情が深いお話』

天明五年(西暦1785年)頃の話である。堺町で猿を数多集めて歌舞伎や女形などの藝をさせる者があり、見物客が大勢集まった。見物した人に聞くと「いやはや、よくぞ仕込んだものだ。今流行りの役者の特徴をよくつかんで真似をするし、身振りなんかも見事だよ」と語ってくれた。
猿のうち、一匹が子を産んだ。藝を演じる最中も我が子を思い、その可愛がるさまは並のものではなく人の胸を打った。だんだんと子猿が大きくなると殊のほか虱がたかるようになった。それではかなわないので猿回しが湯に入れて虱を取った。毛を乾かそうと二階の物干し場につないでおいたところ、鳶がそれを見つけて嘴で突付いて殺してしまった。猿回しが追い払って介抱したが死んでしまったのである。それで母猿をよんで「おまえが長年一所懸命働いてくれるおかげで私が暮らせるのだ。生まれた子猿を愛するおまえの姿を見ていればこそ、なおさらこの別れを大変哀しく思う。まさか鳶が来るとは思いもしなかった。物干し場などに置いてしまって済まないことをしたと思う」と慰めると母猿は涙にくれた様子であった。猿回しがその場をしばし離れた隙にこの母猿は狂言に使う紐を棟にかけ、縊れて死んでしまった。
涙を誘う子を思う母の情愛だと人は語ったことである。

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